仏さまと聞くと、やさしい顔で微笑んでいる姿を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし仏の世界には“怒った顔”をしている仏さまもいます。
それが「明王(みょうおう)」です。
明王は、悪い心や迷いを打ち砕き、人々を正しい道へ導くためにあえて怖い姿をしている仏さまなのです。
明王とは?

明王は、仏の中でも「如来(にょらい)」や「菩薩(ぼさつ)」と並ぶ存在です。
ただし、如来や菩薩がやさしく教えを説いて人々を救うのに対し、明王は「怒りの力」で迷いを断ち切るのが役目です。
たとえば、仏の教えを信じようとしない人や、悪い行いをしてしまう人に対して、「目を覚ましなさい!」と叱るように導いてくれるのが明王です。そのため、明王は恐ろしい表情や炎に包まれた姿で表されることが多いのです。
明王の像容と特徴

明王の姿は、ほかの仏さまとはかなり違います。たとえば次のような特徴があります。
- 怒った顔(忿怒相・ふんぬそう):大きな目を見開き、歯をむき出しにして怒っている表情。
- 炎に包まれた姿:悪を焼き尽くす「火焔光背(かえんこうはい)」を背負っています。
- 武器を持っている:剣や縄を持ち、悪を断ち切ったり、迷える人を引き寄せたりします。
こうした姿は、恐ろしく見えますが、「どんな人でも救いたい」という強い思いの表れなのです。
主な明王の種類
不動明王(ふどうみょうおう)

もっとも有名な明王です。
炎の中でどっしりと座り、右手に「剣(けん)」、左手に「縄(けんさく)」を持っています。剣で人々の迷いや悪を断ち切り、縄で正しい道へ引き戻してくれます。
名前の通り「心が動かない=不動」ことから、どんな困難にも動じない力強さの象徴です。護摩(ごま)と呼ばれる火の儀式でも中心的に祀られています。
愛染明王(あいぜんみょうおう)
一見すると怖い顔をしていますが、「愛」と「情熱」を司る明王です。愛の力を清らかな心に変えてくれるとされ、縁結びや恋愛成就の仏としても信仰されています。
赤い体と六本の腕が特徴で、頭には宝冠をかぶり、煩悩(ぼんのう)を悟りに変える力を持っています。
まとめ|仏像の種類「明王(みょうおう)」とは?怒りの表情で人々を導く仏さま

明王は、やさしい顔の仏さまとは違い、怒りの表情で人々を救う存在です。
それは「怒っている」のではなく、「本気で人々を守りたい」という強い慈悲(じひ)のあらわれです。とくに不動明王や愛染明王は、今でも多くの人に信仰され、お寺ではその姿を拝むことができます。
見た目は怖くても、心の中はとてもやさしい――それが明王の本当の姿なのです。
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