戦国時代には、名将や合戦の影に、時代に翻弄された女性たちの人生がありました。
おつやの方も、その一人です。
岩村城の女城主として知られ、織田信長の叔母という血縁関係にありながら、最期は処刑という非情な結末を迎えた女性──。
この記事では、「おつやの方とは何者だったのか」「なぜ処刑されたのか」「逆さ磔の刑は事実なのか」を、史料と研究をもとにわかりやすく整理します。
おつやの方とはどんな人物だったのか

おつやの方は戦国時代の女性。織田信長の父・織田信秀の姉妹にあたる人物です。
つまり信長にとっては「叔母」にあたります。
正確な生年は不明ですが、信長と年齢差はそれほど大きくなかったと考えられており、一般的に想像されがちな「かなり年上の叔母」という関係ではありませんでした。
岩村城とおつやの方の深い関係
おつやの方の名が歴史に刻まれた最大の理由は、岩村城との関わりにあります。
岩村城は戦国屈指の要衝だった

岩村城は、現在の岐阜県恵那市に位置する山城で、標高約721メートル。「日本三大山城」のひとつにも数えられ、東美濃を押さえる戦略的拠点でした。

この城は、美濃・信濃・三河を結ぶ交通と軍事の要であり、織田氏・武田氏双方にとって、決して失うことのできない城でした。
信長の五男・勝長を養子にして女城主に

おつやの方は、岩村城主・遠山景任の妻でした。しかし、景任が病没したことで、城は後継不在という不安定な状況に陥ります。
織田信長は、東美濃の要衝である岩村城を一族の確実な支配下に置くため、まだ幼い五男・織田勝長を名目上の城主として送り込みます。当時、勝長はわずか6歳。実際に政務や軍事を担える年齢ではありませんでした。
そこで、勝長の養母となったおつやの方が、後見人として城の実権を握ることになります。
このとき、城の実権を握ったのが、おつやの方でした。名目上は「城主代行」とも言える立場ですが、実質的には岩村城を取り仕切る女城主として、難しい判断を迫られる存在となります。
武田方への転向と政略結婚
岩村城が置かれた状況は、想像以上に過酷なものでした。
武田信玄の西上作戦に巻き込まれる
当時、武田信玄は西へ勢力を拡大する「西上作戦」を進めており、東美濃の岩村城もその影響を強く受けていました。織田方の援軍が十分に期待できない中、城は孤立していきます。
秋山虎繁との婚姻という選択
こうした状況下で、おつやの方は武田方の将・秋山虎繁と婚姻関係を結び、岩村城を武田方に引き渡します。
これは、城と人命を守るための現実的な判断だったとも考えられています。
しかし、この行動は、織田信長の立場から見れば「裏切り」と受け取られるものでした。
織田信長が下した非情な決断
武田信玄の死後、情勢は一変します。織田信長は反攻に転じ、岩村城を包囲しました。
降伏後も助命されなかった理由
城は最終的に落城し、おつやの方と秋山虎繁は捕らえられます。一説には、降伏の条件として助命が約束されていたとも言われますが、結果としてそれは守られませんでした。
織田信長は、血縁関係にある叔母であっても例外とせず、厳罰を下します。
逆さ磔の刑は本当に行われたのか
おつやの方の最期について、特に有名なのが「逆さ磔の刑」です。
逆さ磔の刑とは
逆さ磔の刑とは、通常の磔刑とは異なり、逆さまの状態で柱に縛り付けて処刑する、極めて残酷で屈辱的な刑罰です。裏切り者や重大な罪人に科されることが多かったとされています。
逆さまの状態で三日三晩縛られ続けると、全身から血が吹き出し、最後には目玉が飛び出るほどだと言います。それほどまでに苦しめたいほど、信長の怒りを買ってしまったということなのでしょうか。
処刑方法には諸説がある
史料によっては、
- 逆さ磔の刑に処された
- 斬首された
- 信長自らが処断した
など、複数の説が伝えられています。
そのため、「逆さ磔の刑」は有力な説の一つではあるものの、断定はできないのが史実に即した理解です。
ただし、いずれの説においても、おつやの方が極めて厳しい形で処刑されたことは共通しています。
悲劇の女城主としての評価

おつやの方は、長く「裏切り者」として語られてきました。しかし近年では、その評価も見直されつつあります。
戦国という男性中心の権力社会の中で、城を守る決断を迫られた一人の女性。おつやの方は、勝者の論理によって裁かれた存在であり、時代に翻弄された政治的犠牲者だったとも言えるでしょう。
岩村城周辺には、彼女の怨念や供養にまつわる伝承も残り、今なお人々の記憶の中に生き続けています。
まとめ|おつやの方が示す戦国時代の現実

おつやの方の生涯は、戦国時代の非情さを象徴しています。
血縁であっても容赦されない権力闘争。生き残るための選択が、裏切りとして断罪される現実。
岩村城をめぐるこの悲劇は、単なる一城の歴史ではなく、「戦国を生きた女性の現実」を私たちに伝えてくれます。
城跡を歩くとき、ぜひこの女城主の物語にも思いを馳せてみてください。
▼歴史上の人物のノミチ記事


