昨今、健康志向の高まりやスローな観光・地元旅への関心が高まっています。こうした流れの中で、注目を集めるのが「ウォーキングツーリズムによる観光振興・地域振興」です。
本稿では、ウォーキング×観光振興・地域振興をめぐる以下の点を解説していきます。ウォーキングツーリズムなどの導入を検討している自治体担当者や観光事業者の皆さまは、ぜひ参考にしてください。
- なぜウォーキングに着目するのか
- ウォーキングによる観光振興を指す「ウォーキングツーリズム」とはなにか
- ウォーキングツーリズム導入時のポイント
なぜ、ウォーキングに着目するのか
ウォーキングが注目される理由は多数あります。そもそも、ウォーキングによる観光それ自体は、聖地巡礼など古くから行われていたものであり、新しい形態ではありません。
しかし今日は、ウォーキング以外の手段が充実しているにも関わらず、人びとがウォーキングに魅力を見出し主体的に選択している点がポイントなのです。
1. 運動不足の解消
1つ目の理由は、「運動習慣不足」です。
厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」によると、運動習慣のある人(1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している人)の割合は、男性が33.4%、女性が25.1%となっています。
運動不足は、心筋梗塞や狭心症に代表される虚血性心疾患や脳梗塞など、動脈硬化がもとになる病気と強い関連があります。こうした病気のリスクを下げるためにもお金がかからない手軽な誰でもできる運動であるウォーキングが、注目を集めているのです。
2. 心身のリフレッシュ・ストレス軽減効果
2つ目の理由は、「心身のリフレッシュ・ストレス軽減効果」です。
「気持ち良い!」と感じる強度でウォーキングをすると、「セロトニン」という神経伝達物質が分泌されます。
セロトニンには、気分を落ち着かせられる作用があります。幸福感を得られたり、モチベーションが向上したり、不安感が軽減するなどの効果があるとされています。
「ストレス社会」ともいわれる現代を生き抜く上では、心身のリフレッシュとストレス解消は必須であり、その手段としてウォーキングが有効なのです。
3. 自然環境や地域資源を楽しめる
3つ目の理由は、「自然環境や地域資源を楽しめる」です。
車や鉄道などの早い乗り物では、自然や町並みなどの地域資源をゆったりと楽しむ余裕がありません。また自転車の場合も、降りた自転車を置く場所の確保や初期投資などのハードルがあります。
しかし、ウォーキングの場合は周囲の景色が目で追える速度で移動するため、普段は楽しむ余裕の少ない自然環境や地域資源をゆっくりと楽しむことができます。ゆっくり歩くことで、地元の景色でさえも見え方が変わるでしょう。
ウォーキングツーリズムとはなにか
UNWTO(World Tourism Organization)によれば、ウォーキングツーリズムとは「スポーツツーリズムの一つの形態」です。
体を動かすアクティビティの総称であるスポーツツーリズムですが、ウォーキングツーリズムは他の形態と比べて、地域を魅力的なものにするために必要となる投資と、観光客自身の投資がわずかで済む点が大きな特徴として挙げられます。
また、ウォーキングツーリズムは環境への負荷が小さいため、自然環境に負荷をかけないサスティナブル・ツーリズムが注目される現代において、より多くの観光客を誘致することや、観光客の滞在期間を延長すること、消費を促すことができる可能性があります。
さらに、地域にとっては既存の地域資源を効果的に活用することで新たな観光商品を開発できるため、財政的な余裕のない地方農村などでもオリジナリティのあるコンテンツの創出が可能となるのです。
一例として、岐阜県岐阜市は健康増進と観光資源活用を組み合わせた「クアオルト健康ウオーキング」を推進しています。
これはドイツの運動療法を基本としたもので、自然を楽しみながら、安全・快適に運動効果が得られるように専門家が設定したコースを、実践指導者(ガイド)とともに歩くコンテンツを提供しています。
岐阜市によれば、「クアオルト健康ウオーキング」は健康増進と観光振興の両方を達成することが可能。ガイドになるための資格講座を通して、地域の観光資産や歴史、植生や生態系に詳しい住民も増えていくので、観光や地域づくりを先導する人材の育成の場にもなっています。
最後に-ウォーキングツーリズム導入時のポイント-
本稿ではウォーキングがもつ観光振興・地域振興の可能性を紹介してきました。この記事を読んでいる人の中には、これからウォーキングツーリズムを地域に導入しようと考えている自治体担当者や事業者もいることが想定されます。
そこで最後に、ウォーキングツーリズム導入時のポイントを整理していきます。以下の要素が導入段階では重要となる点です。
- ルートの特徴の整理
- 必要な設備の有無の確認
- 持続可能なメンテナンスの仕組みづくり
- 経済的な機会の創出
- マーケティングや商業化の方法
- 適切なターゲット設定
- 地域住民や関連アクターの理解促進
1.ルートの特徴の整理には、魅力や安全性、難易度、アクセスを見える化する作業が含まれます。
2.必要な整備とは、標識や案内看板、トイレ、ベンチ等の休憩ポイントが含まれます。
3.持続可能なメンテナンスの仕組みづくりとは、整備したウォーキングコースの草刈りや清掃などを誰が、いつ行うのかを決めることを指します。
4.経済的な機会の創出とは、宿泊施設、交通機関、小売店、文化事業、ガストロノミーツーリズムやワインツーリズムとの連携等を指します。
ウォーキングツーリズムは基本的には無料で行われる観光振興・地域振興ですが、持続可能性を担保するためには、お金が落ちるポイントを明確化することが重要です。
5.マーケティングや商業化の方法とは、そのままではマネタイズしにくいコンテンツを独自性あるものにし、経済的な持続可能性を担保することを指します。ニーズ調査やPRなども含まれます。
6.適切なターゲット設定とは、ウォーキングコースが初心者向きなのか上級者向きなのか、若者向きなのか年配層向きなのかなどを指します。
同じコースでも対象に合っていなければ満足度が下がり、安全性も下がる危険性があるため、ターゲット設定は重要です。
7.地域住民や関連アクターの理解促進とは、ウォーキングコース周辺に住む住民や日常的にコースを利用する地元団体等の理解を事前に得ることを指します。
住民や地域団体からの協力を得ることは、ウォーキングツーリズム中のコミュニケーション創出のために必須です。理解が得られていなければ、ビジターは不快な思いをする可能性が高まってしまうでしょう。
ウォーキングツーリズム導入時には、以上の点を押さえることで成功の可能性が高まると考えられます。
ノミチでは、5.マーケティングや商業化の方法の一環として、ウォーキングツーリズムのニーズ調査やPRを行っております。まずはお気軽に、お問い合わせよりご連絡ください。
参考資料
・ジモタイワークスWEB, 2020, 「“健康”と“観光”を同時に強化、ウォーキングで実現するまちづくり。」.
・UNWTO, 「ウォーキングツーリズム-地域振興の促進-」.